2013年3月13日水曜日

紀伊民報 白浜の海はおもしろい 2013.3.9



白浜の海はおもしろい

 二月は凍える日が続いた。白浜町には珍しい酷寒の日々だった。北風の強さといったらもう台風なみで、白浜北岸の臨海浦では風に向かって歩くことができない。後ろ向きに背中を丸めて後退歩行するとようやく歩ける。

 だが砂浜に下りて波打ち際を歩くのは面白い。トビやカモメが波打ち際に向かって下降を繰り返しているときは、そこに魚があると見ていい。3,40cmの形のいい魚が横たわっていることが多い。体形がもうひとつのフグやハゲは横たわっていても食べられていない。きゃつらも案外に世間を知っていて油断できない。

 海亀の子どもが死んで打ち上がっていることもある。そっと持ち上げて上の方まで運び砂の中に横たえる。まるで浦島太郎になったみたいな気になる。

 とはいえ打ち上がるのはゴミが多い。冷凍釣り餌のビニール袋、コンビニおにぎりのセロハン、弁当容器、ポテトチップスの袋。波打ち際にこれらがあると、異質なものだけにいやに目立つ。一気にうす汚い醜い波打ち際になる。だから二月はやっかいものを拾いながら歩いた。

 たまるゴミは手に重くなるので、ペットボトルの飲み残しはフタを開けて流す。ビニール袋に入った砂と海水はパタパタ払って落とす。絹ごし豆腐の容器に入った砂と海水はひっくり返す。かなりおおごとなのだ。しかも手が凍えてかじかんでくる。

 ある日は波打ち際で拾っているといつの間にか横に人がいてびっくりした。強風と波のせいで気づかなかったのだ。このおじさんはいつも前かがみで歩く人で、立派な前歴をしまい込んで善行にはげんでいると聞いたことがある<うわさの男>だった。がんばれよと言ってくれた。

 時には拾おうとして手を引っ込めることもある。透明ビニールごしにつかんだ犬の糞がビニールとともに捨てられている時だ。これは許せない。自分も毎日犬を散歩させるので余計にカチンときた。見ると砂浜には犬と人の足跡がくっきりとついている。追跡開始。

(2013年2月26日 声欄に寄稿)

2013年3月7日木曜日

ねえやんへの年賀状 2

 ひまわり畑がどこまでもつづくイスタンブル郊外は
土壌をよくみると石だらけの荒れ地にみえました。
 乾燥した土に熱せられた空気はマルマラ海に
向かって吹き続け、土ぼこりがまきあがります。
 空は雲のかけらもない青空。
 しかし、さらに奥に入って見た光景は、一年のうち
もっとも印象的な光景でした。
 荒れ地の向こうみ見えてきた鬱蒼とした森林の真上には
灰色の雨雲がのしかかり、おしみなく雨をそそいで
います。
 まるで神が大空に線を引いたようでした。
 荒れて地の上は雲ひとつわかないのに、森林の上では
雨雲が次から次へとわきあがっているのです。
 「山は木あるときは神気さかんなり、木なきときは
 神気衰えて、雲雨を起こすべき力少なし」
といった熊澤蕃山のことばは、トルコの空に生きていました。