コラムの名手に書かれて、水鉄砲で取り上げられたのだから、衝撃は甚大。
「しかし、自然繁殖するまでの道のりは遠い」
「子どもらがともしたホタルの明かりが消えることのないよう応援したい」
と評するコラム氏の見識は、厳しい激励として、そして時事的な批評として
地域社会と地球環境をグサリと刺し貫いている。
【水鉄砲】全文
「温泉街にホタルを飛ばそう」と3年前、白浜町の瀬戸地区で小さな活動が始まった。
4年目に入った今年の5月下旬、ワッ、飛んでると感動するほど舞ったようですよ、と
呼び掛け人の久保卓哉さん(69)からメールを頂いた。
久保さんは温泉街の出身。昭和30年代はまだ辺りに水田が多く、あちこちでホタルが
乱舞していたという。
しかし、宅地造成など開発が進むに連れてホタルは姿を消し、ホタルが見られなくなって
久しい。
久保さんは近所の児童数人とゲンジボタルの幼虫や幼虫の餌になるカワニナを飼育。
2年前の3月には、大きく育った幼虫10匹を側溝に初めて放ち、5月に5匹飛ぶのを
確認した。
昨年は幼虫24匹を放流したが、アメリカザリガニの襲撃であえなく全滅。
今年は幼虫の成育が順調で340匹を放流し、ザリガニ除けの対策も講じた。
5月13日に約10匹、15日には約15匹、23日には20匹以上飛び交い、
近所の人らも見入った。
久保さんは用事で地元にいなかったが、家族から報告を受けたという。
ゲンジボタルは一時姿を消したが、周辺には幼虫やカワニナが育つ環境がまだ残って
いた。
小さな活動の効果が、これほど早く現れたことにも驚かされる。
しかし、自然繁殖するまでの道のりは遠い。わずかに残されたいまの環境が、
この先変わらないとも限らない。
子どもらがともしたホタルの明かりが消えることのないよう応援したい。
(沖)
【紀伊民報 コラム「水鉄砲」 2016年6月17日】